【書籍1巻発売&コミカライズ進行中】悪女の汚名返上いたします!

「貴女、試験中でしょう!? こんなことしたら、また不合格に……いっ、痛い! 離して!!」

 必死に叫んで腕を振りほどこうとするが、少女は一向に力を緩めない。
 それどころか、痛がるベアトリスの顔を見て、ますます楽しそうに高笑いをしている。

(この子、本気だわ……完全に狂っている。このままじゃ腕を折られる、いや……殺される!)

 脳内が恐怖で塗り潰された。
 ──その瞬間。

「何をしている」

 伸びやかな男性の声が耳に飛び込んできた。
 
 それと同時に掴みあげられていた腕が解放され、ベアトリスは地面に倒れ込む。

 ハッとして顔をあげると、視界に映ったのは自分を庇うように立つ青年の後ろ姿。
 純白の騎士服をまとい、すらりとした細身の高身長。だが背中は広く頼もしい。

 黒髪がサラサラと風になびき、陽光を受けて艶やかに(きら)めいていた。

「大丈夫か」

 ちらりと視線をよこした、その男の顔。
 見覚えのある整った美貌を見上げて、ベアトリスは呆然と呟いた。

 
「どうして……貴方がここにいるの……?」

 
 そこに立っていたのは、本来ここに居るはずのない人物。
 ベアトリスが断罪された時、『貴女には失望しました』というような眼差しを向けた男。

 
「……ユーリス・ブレア」

 
 ──私を嫌っているはずの、因縁の騎士だった。