【書籍1巻発売&コミカライズ進行中】悪女の汚名返上いたします!

 バッカスは苦笑しながらそう言った後、ふいに表情を引きしめ「だがお嬢ちゃんは、わしとは違う」と力強く告げた。

「アンタはまだ若い。なんの罪を犯したのか知らんが、まだまだ人生やり直せるよ」

「やり直すなんて……」

 脱獄失敗で刑期は延長。もし数年後、外に出られたとしても帰る場所さえない。

「……無理だわ」

 ベアトリスの口から、らしくない弱音がこぼれた。
 
「お嬢ちゃんならできるさ!」

「……適当なこと言わないで」

「わしは本心から言っとるんじゃよ。長い人生、商人(あきんど)としてこれまで多くの人間を見てきた。目を見れば、相手の本音や考えていることが少しは分かるつもりじゃ」

 バッカスはその稀有な『鑑定眼』で、ベアトリスの瞳をまっすぐ見つめた。

「お嬢ちゃんは生きる情熱を失っていない。まだまだやれる、諦めたくないと自分でも思っている──そうじゃろう?」

 背中を押すように問いかけられ、ベアトリスの負けん気に火が付いた。

「そうよね。……こんなところで諦めない。不当に追放されたまま人生終わりなんて嫌だわ」

 ぐっと拳を握りしめて言えば、バッカスが「その調子じゃ」と微笑んだ。

「バッカス、ありが──」

『ありがとう』と、告げようとした時、戻ってきた看守に「貴様たち、仕事へ戻れ!」と怒鳴られ、それぞれの持ち場へ向かった。

(お礼を言いそびれてしまったわ。でも、同じ場所で働いているんだもの。また会えるわよね)