ベアトリスの追放先は、王国の山岳地帯にある採石場だった。

 労役を課された囚人たちの朝は早い。
 
 太陽が昇る前に叩き起こされ、男たちは採掘のため鉱山へ。
 女たちは宿舎の炊事洗濯や鉱石の仕分け作業に追われる。

 仕事は夜まで続き、疲労と空腹で意識を失うように眠れば、またすぐに朝。

 元聖女のベアトリスには通常業務に加え、負傷者を聖魔法で治療する仕事も与えられた。

 
(今日の患者はこれで終わりね。はぁ、疲れた)

 ぐったりしていると、看守が険しい顔で近づいてくるのが見えた。
 
 なにか嫌な気配がする。
 
 面倒事を押しつけられるのだけは勘弁……!と思い逃げようとしたが、「おい、待て!」と怒鳴りつけられ、ベアトリスは渋々立ち止まった。
 
「最近、救護室の薬品の数が合わないんだが、まさかお前が盗んでいるんじゃないだろうな」
 
「私は自分で怪我を治せるのよ。薬品を盗む理由なんてないわ」
 
「チッ、罪人のくせに、生意気な奴め。備品の紛失は救護室担当のお前の責任だ。ふん、このまま紛失が続くようなら、お前が盗んだことにして上に報告してやるぞ。そうなれば、さらに刑期が増えるだろうなぁ!」
 
「はぁ!? そんな事をして、貴方になんの得があるのよ」