「うそつき」
 
 自分のものじゃないような、ぞっとするほど低い声だった。

「フェルナン殿下のうそつき!」

 ひとこと発したら、次から次へと恨み言が口からこぼれ落ちる。

「このまま、わたしを遠ざけるつもり……? まさか、今さらベアトリスの方が良いとか思っているんじゃないわよね。冗談じゃないわ、ここまでわたしがどれほど苦労したと思っているのよ」

 あぁ、だめよ。聖女は清らかで、慈悲深い心を持っていなくちゃ。心が汚れたら、聖なる力が失われてしまう。

 セレーナは心を落ち着かせると、両手を胸の前で組み、神に祈った。

「あぁ、神様……」

 ──フェルナン殿下の愛を疑ってしまい。
 
「すみません……」

 ──わたしのことを嫌う王妃様を(わずら)わしく思って。
 
「すみません……」
 
 ──目障りなベアトリスを、殺したいほど憎んで……。
 
「すみません」

 ──心から謝罪しますから、どうかわたしの心が。

「綺麗なままでありますように」