幼い頃から、恋愛小説の主人公(ヒロイン)に憧れていた。
 
 虐げられる不遇な女性が、素敵な王子様に見初められ愛される物語は、何度読んでも胸がときめく。

 しかし、物語の主人公とは得てして、いつも正しくて良い子が多い。

 虐められても我慢強く耐え忍び、寛大な心で悪者を許す健気で優しい女の子。

 
 ──敵を許すなんて、私には到底無理な話だわ。

 
 ベアトリスは、そんな主人公(ヒロイン)とは真逆の性格だった。
 
 腹が立てば怒るし、ひどいことをされたら許すどころか倍返しにしなきゃ気が済まない。

 気が強く人付き合いが苦手で、おまけに口下手。
 
 だから気付けば、主人公どころか【悪役】ポジションになっていた。

 
『ベアトリス・バレリー。この場で、お前との婚約を破棄する。さらに王都から追放し、大鉱山での強制労働を命じる!』
 
 
 聖女ベアトリスは、突如として許嫁(いいなずけ)の王子に婚約破棄を言い渡され、あずかり知らぬ罪で追放された。