姐さんって、呼ばないで


「仁さん、ここは学校。約束を忘れたわけじゃないですよね?」
「ぁあ゛っ?」

左隣りにいた詠ちゃんが、彼に画面が見えるようにスマホをかざした。

「小春に迷惑かけるような真似したら、写メ……送らないですよ?」
「なっ……」

詠ちゃん、怖くないの?
極道の若頭だよ?
それも、極道でも泣く子は黙ると恐れられてる桐生組の若頭。

一瞬、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた桐生さんは、詠ちゃんのスマホをロックオンした、次の瞬間。

「かっ……可愛いぃぃぃ~~っ」

凄みのある顔が一瞬で蕩け、目尻を下げデレ顔で詠ちゃんのスマホを愛で始めた。

「頼むっ!コレ全部送ってくれ!!」

何が映ってるんだろうと、ひょっこりスマホ画面を覗くと。
なんと、仲のいい女の子同士でしたクリパの時の私のサンタコスの写真が。

「ちょっと、詠ちゃん!」
「まぁまぁまぁ~、平和な高校生活送りたいでしょ?」
「ッ?!……何で私の写真なのよっ」
「仁さんにはこれが一番効果的なの(ほら、見てごらん。あんなにデレてる)」

耳元に呟かれた言葉通り、真横にいる彼は完全に別人のよう。

「終わった人から教室戻っていいぞ~」

学年主任の先生が体育館内に響き渡るように声を張る。
列が少しずつ前に進み、遠目で先生の視線が私の右隣りに向けられている。

どうして高校に入学したのかは分からないけれど、明らかに浮ている。
そもそもその格好、制服検査……アウトでしょ。

「あっ、あの……」
「ん?」

威圧感丸出しで腕組し、見下ろす彼の首元に手を伸ばした。

「ネッ、ネクタイくらいはちゃんと結ばないと指摘されるからっ。……それと、そのピアス、今のうちに取っておいた方がいいですよ。先生に没収されちゃいます」