八時三十五分の予鈴が鳴ると、何やら教室の外から男子生徒の叫ぶような声が掠かに聞こえた、直後。
教室の後ろのドアから現れた長身の男子二人組にクラスメイトの視線が一斉に注がれる。

「おいっ、見せもんじゃねーぞ」

見るからに『不良』という言葉がマッチするような、制服を着崩した強面の男子がどすを利かせ、クラスメイトを威嚇する。
そして、もう一人の男子が私を見つけるや否や、真っすぐこちらへと向かって歩いて来る。

「久しぶりだな」

ふわっとした柔らかい笑みを向けた、次の瞬間。
長い両手が伸びて来て、気付いた時には彼の腕の中に。

えっ、何この人?!
ってか、こんな美男子、知らないんだけど…。
周りにいるクラスメイトが驚愕している。

「えっ、……ちょっ…」
「あ、(わり)っ」

身長百八十センチは優に超えてるであろう長身に、スッと通った鼻梁、薄い唇はキュッと結ばれ、芯がありそうな目力のある瞳、細身なのに筋肉質の体躯。
テレビで観る売れっ子モデルや人気俳優より、遥かに整った顔つき。
あまりにも息を呑む美しさに思わず見惚れてしまった。

「姐さん、ご無沙汰しております」
「………へ?」

彼のすぐ後ろにいるどすを利かせていた強面の男子に『姐さん』呼ばわりされた。
……何、どういうこと?
辺りが騒然となる。
周りの子達の視線を感じながら、詠ちゃんに視線を向け、助けを求めた。

キーンコーン、カーンコーン。
本鈴を知らせるチャイムが鳴ると、前のドアから担任(最上(もがみ) 夏樹(なつき) 三十四歳)が姿を現した。

「はーい、席に着いて~。HR始めるわよ~」

小春は自分に何が起きているのかさっぱり理解不能のまま、席に着く子達を眺めていると。

「また後でな」

ポンと彼の大きな手が頭を一撫でした。