「名前は体を表す」というのは、誰が最初に言い出しただろうか。
 私は、ちっとも真白という名前に相応しい人間とは思えない。
 けれど、虹丘望という名前のその人は、確かに名前のままこの世界に具現化されたような存在だった。
 まず、美術の教科書に載っていて、股や顔を落書きのターゲットにされるダビデ像の写真なんかよりもずっと、顔が整っている。
 窓際で他の男子たちと話をしている時に、窓越しに太陽の光に照らされる髪の毛は、キラキラと輝いている。
 この時期の男子特有の、汗臭いすっぱい臭いもしたことがない彼の近くは、いつもシトラスの爽やかな香りに満ちている。
 定期試験も小テストも、抜き打ちテストも常にトップ。
 100m走は11秒をもうすぐ切るかもと、この間クラスの人たちが噂しているのも聞こえてきた。
 きっと、この人の良いところを見つけろと言われて「難しい」と答える人は、ほとんどいないのではないだろうか。
 ほんの少し見ただけで、複数の色鮮やかさがあることがすぐに分かる。
 近づけば、さらに色が無限にあることも分かる。
 まるで、丘にかかった虹のような人。
 もしも、自分が男で、この人の友人として名を連ねる資格があったならば、きっと毎日無理やりにでも、くだらない話題を作って話しかけていたかもしれない。
 近くにいたいと、誰もが望む人。
 まさに、そんな人だと私は、静かに、そして勝手に妄想していた。
 だから、余計に心臓が鷲掴みにされたように痛くなったのだろう。
 どうして、手に届いてはならないそんな人が、私の半径1m以内なんかに来てしまうのだろうかと、疑問に思ったから。
 記憶の中の自分も、そして今まさに

「笠木さん、終業式以来だね」

 と話しかけられている自分も。
 記憶の中の自分は、知る由もなかった。
 何故嬉しそうに、私なんかを見て、優しい声で話しかけてくれるのかを。
 でも、私の記憶通りの出来事が、本当に起きたとしたら?
 決して妄想の範囲では起こり得なかった、夢以上の夢のような展開が、記憶には刻まれている。