ここは、どこか。
 瞼を開けてすぐ抱いた私の疑問は、ほんの数秒で解決した。
 何故なら、節約料理のレシピ本の写真が視界に入ってきたから。
 この本の内容をメモするために、私は駅から徒歩1分で行ける、市の図書館に通い続けてきた。
 窓は多く、天井が高い開放的な空間が人気なため、テーブル席は争奪戦。
 いつもはなかなか空かないから
 写すためのノートは、私の頬の下敷きになっていた。
 少々のよだれでも文字が一切滲まないという、先日駅で配っていた、行く予定も無い予備校の宣伝用ボールペンの恩恵に感謝しながら私は、どんよりと重い頭を起こしながら、無造作に置かれたスマホの画面を眺めた。
 202×年7月31日。
 機械的な数字の並びに、私は違和感を覚えた。
 私は、ズキズキと痛み出した額を抑えながら、記憶を遡ってみようとした時だった。

「やだ!あんたもここにいたの!?」
「家だと集中できないから。そっちは?」
「私も。父親が野球観戦ばっかしててうるさいんだよね」

 私は、この会話を知っている。
 デジャブ、なんてものじゃない。
 一言一句、覚えている。
 何故なら、この日は私にとって16年生きていて最も脳に刻まれた1日で、ただ煩いはずだった女子トークと、そのネタになった顔も名前も知らないこの女性との父親にすら感謝をしたから。
 私の記憶が正しければ、この後起こる出来事は3つ。
 まず1つ目。
 ぎろりと、私以外の周囲にいる人たちから、嫌悪の視線がこのテーブルに集まる。
 私は、この場所に座ってからは一言も発していない。
 それなのに、この人たちの半径1m以内にいるせいで、まるで共犯だろと責められるような視線を自分にも向けられたのが、とても居心地悪かったのだ。
 そしてそれは、ものの見事に……この居心地の悪さまでの全てがセットで、1つも記憶と違えることなく起きてしまった。
 おかげ私の胃は、しくしくと痛み出した。
 原因の女子たちのおしゃべりは、一向に止まる気配は無いと言うのに。