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「ふぅ…。今日も私の推しが尊いわ…」


学校の昼休み。


教室窓側の1番後ろの席で私、瀬川(せがわ)芽結(めい)は、頬杖をつき、小さくそう呟いた。


そんな私の前の席で、お昼のサンドイッチを頬張りながら「はいはい。もう筧(かけい)凪音(なお)の話は聞き飽きたよ〜」と、呆れたように言い放ったのは、友達の吉田胡桃(くるみ)ちゃん。

「てか、そんなことよりさー、芽結聞いて!!昨日ね、私の推しが新曲出したんだよ〜。早速、買いに走ったわ!曲も神曲だったし!!あぁ〜もう。SAISON(セゾン)のライブ行きたーい。そして、本物の小雨くんに会いたい〜!」

うっとりと、鞄から取り出したCDジャケットを眺め、胡桃ちゃんは小さくため息をこぼした。


ここまでの会話でお気づきの方もいるかと思うが、私の友人、吉田胡桃ちゃんは根っからのアイドルオタク。

現在は、売出し中の高校生4人組アイドル、SAISON(セゾン)に夢中で…。
その中で彼女の最推しは、あざとかわいい担当の夏木小雨(こさめ)くん。

以前、雑誌を見せてもらったが、確かに胡桃ちゃんが好きそうな可愛い系の顔立ちをしていたっけ?

私は、どちらかというと正統派イケメンの春野翔兎(しょうと)くんの方がタイプだ。

「…はいはい。胡桃ちゃんの推しの話は今度ゆっくりね。今から聞いてたら、昼休み終わっちゃうもん」


新曲について語りだしたら最低でも30分は話を聞かされることは経験上、わかりきっているし。


「えぇ〜、つまんない!」と言って頬を膨らませる彼女に、内心苦笑いを浮かべていた時。


「あ、委員長!数学の田中が課題集めとけって!」


ドキン。


教室の入口からある男子生徒に声をかけられ、思わず胸が高鳴った。