君の世界に触れさせて

「まさか、栄治が写真を撮るとはな」


 そんなことを思いながら二人にカメラを向けていると、佐伯が言ってきた。


 驚いているような、喜んでいるような表情に対して、僕は微笑み返す。


「僕も、思わなかったよ」


 古賀たちに視線を戻すと、古賀が氷野を捕まえ、スマホを奪っていた。


 古賀は取り戻されないように、右手を高く上げている。


 身長差があることから、氷野はそれに届いていなくて、怒りながら取り返そうとする氷野を見て、古賀は笑っている。


「でも、あの笑顔を前にしたら、僕のくだらないプライドなんてどうでもいいなって思ったんだ」
「へえ?」


 佐伯はからかう声を出して、相槌を打つ。


 少しだけ、言葉を間違えたかもしれないけど、本当に思ったことだから、訂正するのも違う気がした。


「……遥哉さんのことはいいのか?」


 からかわれると思ったのに、佐伯は声のトーンを落として、本気で心配した面持ちで言った。


 それは、僕も気にしていたことだ。


「ちゃんと話すよ」


 ハル兄と向き合うのは、まだ怖い。


 でも、このまま逃げ続けて、後ろめたさを感じながらカメラを持つことは、したくなかった。


「なんにせよ、古賀ちゃんに感謝だな」


 佐伯は僕の右肩を軽く叩いてから、歩き始める。


「……本当にね」


 佐伯は僕をからかうつもりで言ったのかもしれないけど、実際に救われた以上、それしか言えなかった。