この人の笑顔が素敵なのか、撮影者が瞬間を切り取るのが上手なのか。


 写真なんてまるで知らない私には、それすらもわからない。


 ただ、誰がこの写真を撮ったのか気になって、視線を動かすと、写真の下に名があることに気付いた。


『夏川栄治』


 ようやく動き出した私は、その教室内で『夏川栄治』を探す。


 笑顔、怒った顔、真剣な顔、そしてやっぱり笑顔。


『夏川栄治』が撮った写真は人を写したものが多く、どれも表情が豊かだった。


 だけど、たくさんある中で、一目惚れした写真が一番素敵だと思った。

 私はまた、その写真の前に戻ってくる。


「……決めた」
「決めたって、なにを?」


 私の後を付いてきていた咲楽が、欠伸をしながら聞き返す。


「私、この高校受験する」


 ずっと目の前の写真を見ていたから、咲楽がどんな顔をしたのか、私は知らない。


 でも、勢いよく腕に絡みついてきたところを見るに、喜んでいるらしい。


「じゃあ、私もここにしよっかな」
「咲楽、学力足りるの?」


 咲楽は頬を膨らませて、私の肩を叩く。


 教室を出ていく咲楽を追いかける私の足は、軽かった。