「逃げるな、古賀依澄!」


 翌朝、学校に行きたくなくて、ベッドの上で丸まっていたら、朝からうちに来ていた咲楽に怒鳴られた。


 私は驚いて、思わず顔を出す。


 ベッドの傍に座った咲楽は、真剣な表情をしている。


「依澄は、嫌なことから逃げるような子じゃない。自分の力で立ち向かえる、強い子だよ」


 その言葉は、思っている以上に心に響いた。


 咲楽の力強い声も相まって、目頭が熱くなる。


「一人が怖いなら、私がいる。私はどんなことがあっても、絶対に依澄の味方だから」


 私はゆっくりと体を起こす。


 これほど応援してくれる咲楽のためにも、頑張りたい気持ちは確かにある。


 だけど、少しだけ自信が伴わない。


「咲楽……今日も、可愛くしてくれる?」


 自分に自信を持つ方法を、それしか知らなかった。


 咲楽は任せなさいと言わんばかりに笑う。


「夏川栄治を一瞬で落とすレベルで可愛くしてあげる」


 そして咲楽にされるがままに、私は身支度を整えた。


 昨日よりも大きく、はっきりと見える瞳。

 ほんのりと赤い頬。

 ふっくらとした綺麗な唇。


 そのどれもが、私ではないようだった。


 髪型は、クラスマッチのときに咲楽がしてくれたもの。


 今日こそ、お揃いの髪型になった。