「ねぇ、帆乃ちゃん。」

「……なーにー?」

「もしかしてだけど……喧嘩、したの? 泉玖君と。」

「した……。」

 あの後結局泉玖を追いかける事ができなくて、私を呼びに来た奈來ちゃんにさっきの事を見透かされる。

 何で分かったんだろ……。

「奈來ちゃん、見てたの?」

「あはは……うん。ごめんね、帆乃ちゃん呼びに来たら……話聞いちゃって。」

「そっかぁ……。」

 それは申し訳ない事をしたなぁ……。

 奈來ちゃんに心配かけたいわけじゃないのに、心の中にあるもやもやは一向に消えてくれない。

 それも分かっているらしい奈來ちゃんは、いつもの優しい笑顔を私に向けた。

「正直何があったのかはあんまり分かんないんだけど……珍しいなって思ったよ。帆乃ちゃんと泉玖君が喧嘩しちゃうなんて。」

「私だって、喧嘩したままになるとは思ってなかったんだよ……。」

 いつもの、謝ったのに仲直りの雰囲気にならなかっただけ。

 ただそれだけのはずなのに、心臓の辺りがチクチクする。

「でも帆乃ちゃん、泉玖君に言いたい事は言ったんでしょ?」