「紗梛さん、まず最初に……長宗我部家ともう没落してしまったが紗梛さんの母君が育った更科家について。そして、結葉龍神様と華乃宮毘売様についてだ」


 箱には鍵穴があり、とても厳重に管理されていたのがわかる。それにお義父様は鍵をしっかりと入れて開けると、そこからは年季が入っていそうな分厚い本や資料が出て来た。


「これがうちの……長宗我部家の資料でこっちが更科家の資料だ。最初はこれから話をしよう。まずは、結葉龍神様と長宗我部家のこと」


 貴文様は、資料の中から一つの似顔絵を取り出した。それは少し面影が士貴さんに似ていて、会ったこともないのに何故か懐かしいような……上手く表現ができないが、そんな雰囲気を感じた。


「この方が結葉龍神(むすびのはりゅうじん)様だ。長宗我部家を作った御方で、縁結びの神様だ。鈴蘭の香りをさせていたと言われている。士貴は生まれた時から生まれ変わりだとすぐにわかったよ。それでこちらの華乃宮毘売(はなのみやひめ)様は本来の自分を取り戻し伴侶と巡り合わせてくれる神様。橘花の香りがしたと言われている。華乃宮様は紗梛さんのお母様であられる紗代さんの生家・更科家を作った御方だ」

「そうなんですね……でも、私、母が更科家の人間だったなんて知らなくて」

「紗代さんが櫻月家で働きに出る前に更科家は没落してしまっていたから紗梛さんが知らないのも無理はないよ。だが、紗梛さんが受け継いで持っていたその香道具は更科家のものなんだ」


 彼が指差したのは士貴さんに持って行こうと言われて持ってきた母の形見である香道具の入っている木箱だった。