月日は巡り、季節は流れる。
 今日も変わらず彼女に会うために離宮のドアを開けた伯爵の目に入ったのは部屋中に溢れる色とりどりの風船。

「これは、また」

 すごい数だ、と感心するようにつぶやいた伯爵が一歩踏み出せば、足元でこつっと何かが当たる。
 それを合図とするかのように、風船が連続的に割れ、パンっという破裂音とともに紙吹雪が部屋中に舞う。
 最後の1つ、大きな風船が割れるとともに中からクラッカーを持った彼女が現れて伯爵に向かって、クラッカーを鳴らす。

「伯爵、25歳のお誕生日おめでとうございます!!」

 彼女がそういうと同時に、伯爵の頭上でくす玉が割れて、さらに紙吹雪が落ちてくる。
 紙吹雪を一身に浴びながら、

「ありがとうございます。今年はまたすごく手が込んでますね、姫」

 耳が痛いんですが、と伯爵は苦笑する。
 準備も大変だったろうが、これはまた片付けが大変だ。

「でしょう! 紙吹雪の生産、すっごくがんばりました」

 得意げにそう言った彼女の名前はベロニカ・スタンフォード。この国の13番目の王女様である。

「で、これ掃除はどうするつもりです?」

「ふふ、面白い事を聞きますね、伯爵。2人で片付けるに決まっているではありませんか?」

 ここにいるのは"呪われ姫"とその"専属暗殺者"だけですよと猫のような金色の瞳を楽しそうに瞬かせ、ドヤ顔で伯爵箒を差し出した。

 この国の王家は呪われている。
『天寿の命』
 寿命以外では死ねなくなる呪い。
 13番目に王の子として生まれてきたためにそんな呪いにかかっているベロニカは、呪われ姫を暗殺せよという陛下の命令でずっと命を狙われている。
 だが、本日に至るまで"呪われ姫"を暗殺できたものは存在しない。
 彼女を殺そうとしても呪いの効果で、弓矢はオモチャのダーツに、爆弾は花吹雪に早変わり。
 呪われている彼女は何をやっても死なないのだ。

『伯爵家以上の貴族は最低一回、どんな手段を使っても構わないから、呪われ姫の暗殺を企てろ』

 陛下直々にそんな命令も出ていたが、さすがにベロニカが20歳を迎えた今では、この国に存在する伯爵家以上の全ての貴族がその命令の条件を満たしてしまったため、この離宮を訪れる暗殺者も随分少なくなっている。
 そんなわけで忘れられたようにひっそりと存在するこのボロボロの離宮で、今日も呪われ姫は元気に楽しく生きていた。