膝を抱えて顔を伏せすっかりヘソを曲げてしまったベロニカに伯爵は盛大なため息を漏らす。
 滅多なことでは怒らない伯爵を怒らせてしまったかもしれない、とびくっと肩を震わせたベロニカは謝罪を口にしようと顔を上げると、

「ああ、もう。アンタって人は……」

 と呆れた顔をする伯爵と目が合った。

「自分だけ我慢してると思うなよ」

 はぁっと再度ため息をついた伯爵は仕方なさそうにベロニカの手を取って、

「本当は17歳の誕生日にやるつもりだったけど。当日プレゼントないからな」

 とシルバーの指輪をはめた。

「伯爵、これ……どうしたんですか?」

「銀細工得意な奴に習って作った。石付きの本物の指輪はお金なくてすぐは買えないから当分はそれで勘弁してください」

「伯爵、本当に器用ですね」

 銀細工ってそんな手軽に作れるんですねとベロニカは指輪を眺めて驚いたように目を瞬かせる。

「すぐ、は無理だけど、嫁にしないとは言ってない。それまで大人しく待ってなさい」

 ポンポンと軽くベロニカの頭を叩いて伯爵は微かに笑う。

「まぁ何年かかるか約束はできませんけど、そのうち本物の指輪買ってそれと交換してあげますので、王家滅ぼしちゃダメですよ」

 ベロニカ様はやるっていったら本当にやりかねないからと伯爵はベロニカを止める。

「……嫌です」

「嫌って」

 ベロニカは大事そうに指輪ごと手を握りしめて、

「ずっとこの指輪がいいです。伯爵のお手製の指輪なんて世界でひとつしかないじゃないですか。他はいりません」

 とても幸せそうにそう言って笑った。

「ベロニカ様は安上がりですねぇ」

「ふふ、だって借金塗れの貧乏伯爵家に嫁ぎたいくらいですから」

 コテンと伯爵側に身体を倒したベロニカは、

「こんな幸せな夢を見せて、騙さないでくださいね」

 と伯爵に笑いかける。

「夢じゃないし、騙してませんって。期日未定なだけで」

 なので、諸々は結婚するまでお預けという事でと伯爵はいつも通りの口調でそう言った。

「今度の伯爵のお誕生日期待しててくださいね!! 今日のお礼に一生忘れられないくらい盛大なドッキリ仕掛けますから」

「……すごくいらない」

 キラキラした笑顔で期待しててくださいと張り切るベロニカに、当人の意向は無視の方向かとため息をついた伯爵は、きっとこれから先もベロニカに振り回されるんだろうなと苦笑した。
 そんな予感があったにも関わらず、ベロニカの"誕生日にドッキリ仕掛けるね"宣言をこの時強く止めなかったことを伯爵が後悔するのはもう少し先のお話し。