黄色いオープンカーは走り出した。
初夏の澄み切った空が、海沿いに続いている。
なんの曲だか分からない洋楽が車内に流れていた。
これは千鶴の選曲なんだって。
だからきっと、お洒落な曲に違いない。

「紗和ちゃん、ごめんね。急に私もついてくることになっちゃって」

 そう言った後部座席の彼女を、私は振り返った。

「ううん、全然。むしろ邪魔してるのは、私の方だし」
「ふふ。卓己が紗和ちゃんと並んでるの、初めて見たー」

 卓己め。
普段私のことを、仲間内でどんなふうに話しているんだろう。
にやにやと笑う千鶴に、ちょっとうんざりしている。
その千鶴が言った。

「紗和ちゃんは、充先輩と会うのは初めてなんだよね」
「そ、そうなの。どんな人なのか、楽しみー」

 彼女は後ろに座っているから、顔の表情が読み取れなくて、どういう返事の仕方をすれば正解なのかが分からない。

「あはは。面白い人だよ。私も久しぶりに会えるから、楽しみなの」

 その充先輩こと長谷田充さんというのが、これから私たちの訪ねていく人だ。
卓己の一つ年上の先輩で、先日のアートフェスに卓己たちが来ていたのを見かけ、声をかけようとしたけど、人が多すぎてその場ではあきらめたんだって。
千鶴は風に流される黒く長い髪を手で抑える。

「卓己と三上恭平が知り合いだったってのは、私たちも知ってたんだけど、まさかそのお孫さんが、紗和ちゃんだとは思わなかったなー」

 卓己がおじいちゃんの弟子だったっていうのは、比較的世間に知られていることだ。
そのフェスの会場で三上恭平の実の孫が来ているという話しを耳にした充さんは、ふと自宅に置きっ放しになっている、おじいちゃんの作品を思い出したらしい。

「僕と紗和ちゃんが知り合いなんだったら、恭平さんの作品を紗和ちゃんに返してもいいって、言ってくれたんだ」

 そういう経緯を経て、今回のこのドライブが決行された。

「紗和ちゃん。充先輩の前では、ちゃんと大人しく、いい子にし、してるんだよ!」
「分かってるって。余計なお世話よ」

 赤信号で車が停止したその瞬間、卓己はもの凄く心配そうにこちらをチラリと盗み見る。
私はプイとそんな彼に顔を背けた。
卓己は何かを言いかけたようだけど、青になり、そのまま車を走らせた。