「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

 ニーナは、このタイミングで、変装バージョン殿下とリーゼを対面させたくはなかった。
 せっかく今、アレクサンドラがありとあらゆる自分の知見をフル稼働させて、運命の再会、からのベッドイン戦略を練っているというのに、それを全て水の泡にするようなことをエドヴィン王子がすれば……下手したらエドヴィン王子の命が終わる気がしたから。
 もちろん、アレクサンドラの戦略が、本当にまともなものであることをニーナは祈りつつ、そうではない可能性も考えていた。
 なので、ニーナはリーゼが眠っている隙に、リーゼがこっそりと「推しカプエロ妄想のサポート」のために持ち込んでいた数冊の蜜愛文庫の、恋愛シチュエーション部分だけをぱぱぱっと読み漁り、あれやこれやと独自に戦略は立てていた。
 一夜漬けではあるが、改めて蜜愛文庫のヒーローとヒロインの心が近づく様子や、そこからのアレをいたすまでのパターンを複数読んでみて、ニーナはやはり思ってしまった。
 まず、このヘタレでどうしようもないが、顔だけは抜群にいいこの王子を、ヒーローの気質に近づけることが最優先だと。
 アレクサンドラと2人きりでわちゃわちゃ妄想トークをしている時、ニーナは何度か

「本当に殿下を恋愛対象として見たことないんですか?」

 とアレクサンドラに尋ねたが、その度に

「あれはペットか、ギリギリ弟だったら許せるわ。旦那だったら毎日イライラしちゃいそう」

 と返されてしまった。
 ペット……はともかく、弟みたいというのはニーナも実は同意。
 エドヴィン殿下は頼り甲斐がなく、異性としての強い魅力を感じることができないから。
 見た目だけは妖精っぽい変態主人と、むしろ気質はリーゼより遥かに妖精っぽいエドヴィン王子が本当に相性良いのだろうか……と、ニーナは疑っている。
 逆に無駄に雄々しいアレクサンドラとは別の意味でいいパートナーになるのではともニーナはこっそり心の中で考えたが、決して口には出すまいと、思った。

「とにかく、ここから離れてください、殿下」
「お前はこれからどこに」
「リーゼ様の朝食を取りに行くのですが、何か」
「あ、そ、そうか。リーゼ嬢は朝食は部屋でとるのか」
「ええ」
「そうか……」

 前言撤回。
 ペットに見えても不思議じゃない。
 今、ニーナには見えてしまった。
 しゅーんとなった、犬の耳としっぽがエドヴィン王子から生えているのが。