「リーゼ様、朝食を持ってきますので、くれぐれも、部屋から出ずに、おとなしく、くれぐれもおとなしく、していてくださいね」

 嫌味のように「くれぐれもおとなしく」を繰り返したニーナだったが、リーゼは特にそこに何も反応せず「わかったわ」の一言だけ。
 そのまま再び、ぽーっと顔を赤らめながら、窓の外を眺め始めていた。
 一体何を見て……いや、考えているのだろう……と、ニーナはリーゼの脳の中を覗いてみたいと思った。
 だが、一応自分の役目の1つに、リーゼにご飯を食べさせるという大事なものがあることは自覚があったニーナは、なるはやで戻ってくるためにも足早に部屋を出た。のだが。

「……何で、こんなところに殿下が?」

 扉を開けた瞬間、エドヴィン王子と早々に遭遇してしまった。

「や、やあ偶然だな」
「偶然にしては、バッチリ準備されていらっしゃいますけどね」

 エドヴィン王子の上から下を眺めながら、ニーナはため息をついた。

「いや……だって……」
「……初恋こじらせた子供のような仕草を、一国の王子がしないでもらえます?」

 割とキモいんで、という言葉をギリギリ飲み込んだ自分は偉いと、ニーナは思った。

「そ、そんなこと言っても、お前が昨日あんなこというから」
「あんなこと?」
「だから……俺が……あの姿であれば……マシだというから」
「だからって、まだ作戦もちゃんと決めてないのに、その格好でリーゼ様の近くに立とうとするなんて、武器もないのに敵襲に突っ込むのと同じですよ」

 実は、ニーナの「もしかするとマシかも?」発言を聞いてから居ても立っても居られなくなったエドヴィン王子は、眠ろうとしての眠れなくなり、昨日の変装姿のままリーゼの部屋の前まで太陽が昇る前に来てから、うろちょろしていたのだった。