「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

「と、言うことがあって……」

 一通りエドヴィン王子の説明を聞いたニーナは、最初は真顔で、徐々に渋い顔に変わっていき、最後に大きなため息をついた。
 まるで、魂がそのまま抜け出てしまうのではないかというくらいの長〜いため息に、エドヴィン王子は不安になった。

「な、何かまずかったか……?」
「いえ、まずかったかというか、なんと言うか……」
「何?なんなの?言いたいことがあるなら早くおっしゃいなさい!」
 
 アレクサンドラも急かしてくる。ただ、この急かし方はどちらかと言えば「この後この物語はどうなるのかしら、ワクワク」の急かし方に若干近い気がしたのは、あの文庫の読者であることをニーナも知っているからだろう。

「実はですね、私が、リーゼ様のメガネを鳥から取り戻したんですよ」
「ほう!あそこにニーナもいたのか」
「ええ、そうです。だから、おそらくその続きの言葉は私はよく覚えてるんですが……」

 ニーナは、これを言うべきか悩んだ。
 エドヴィンが解釈したリーゼのエドヴィンへの想いとはまっっっっっったく違うことは、ニーナが何よりも知っていたから。
 わざわざ、これ以上傷穴を広げまくる必要はあるのだろうか、とニーナななりに気を遣おうとした。でも……。

「なあ、リーゼ嬢はあの後、俺についてなんと言っていたんだ?」

 と、期待に満ちた目で訴えてくるものだから、知らぬが仏よりは、現実を突きつけた方が今後のエドヴィン王子の危機感は醸成できるだろうと思った。
 何故なら、あんなことで安心して「自分はリーゼと結婚できるかも」と思われたら、何回人生を繰り返したとしても、あの変人お嬢様の心を掴むのなんか不可能だと、ニーナはよく知っていたから。

「殿下。大変残念でございますが」
「え?」
「リーゼ様はですね、エドヴィン殿下だけのことを眺めたいと言ったわけではないんです」
「「え?まさか?」」

 と、アレクサンドラとエドヴィン王子は同時に反応した。
 そういう息の良さだけは良いんだな……とニーナは感心した。

「その通りです。温泉街で、あなた方お二人が手を繋いで歩いている妄想を、メガネがなくほとんど何も見えない状態で楽しんでいらっしゃったんですよ。しかも、あの温泉街はハネムーンの名所としても有名ですよね」
「まさか……」

 今度はアレクサンドラの声だけだった。
 
「ええ。お二人があの温泉街で結ばれて、後継を授かるところまでは軽く妄想して、その後何やらどーじん?うすい?本とやらを書き記してました」