「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

「あ、あの……」

 どうしよう、次何か言わないと、リーゼに怪しまれてしまう。
 そんな風にエドヴィン王子が考えていると、リーゼが急に満面の笑みで空を見ながら、大きく深呼吸をした。

「気持ちいい空気ですね〜」

 さっき、自分がどんなことを疑問に思ったのか、気にも留めないようなのんびりした話し方に、エドヴィン王子の緊張もほぐれた。

「そう……ですね……」

 それから、リーゼが何も言わずずっと空ばかり見ているので、何がそんなに楽しいのかとエドヴィン王子も空を見てみた。
 特に何か面白い鳥が飛んでいるわけでもなく、普通の空だった。
 エドヴィン王子は、もう少し近づきたいと考えたので

「隣に座っても?」

 と尋ねた。リーゼは、もう自分が問いかけたことなどすっかり忘れたのか

「はい、どうぞ」

 と少し横にずれて、エドヴィンが座れるスペースをベンチに作ってくれた。
 この時が、エドヴィン王子にとってリーゼと同じ椅子に座る、初めての経験。
 ベンチの素材である木越しに、リーゼの体温が伝わってくるのではないか……もしくは、自分の、激しく高鳴る心臓の音が聞こえるのではないかと、本気で心配した。
 それからしばらくの間……太陽の位置がほんの少し西にずれたことが分かるくらいまでの時間、エドヴィン王子もリーゼも何も話さなかった。
 リーゼは、楽しそうに空を見上げており、そんなリーゼの横顔をただ何も言わずに見ているだけで、エドヴィン王子は幸せだと思った。
 とはいえ、いくらなんでもこのままでいるわけにはいかないだろう……と、エドヴィン王子が悩み始めた、その時だった。

「こんな空の下で、殿下を眺めてみたい」

 そんな風に、リーゼがぼそりとつぶやいた。