「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

「お……私は……エドヴィン王子の侍従をしております……え……エヴィーと言います」

 自分で瞬時に作った偽名が、全くひねりがなかったことに、エドヴィン王子は頭抱えたくなった。
 家庭教師から習う言語の勉強を、もう少し真面目にやっておけばよかったと、後悔した。
 でも、リーゼはそんなこと気にならないのか

「殿下の侍従の方なんですね!」

 と、目を輝かせて言ってくれたので、エドヴィン王子はほっと安心した。

「そ、そう……です」
「わあ!では、殿下もこちらにいらっしゃるのですか!?」

 自分がこの場所にいるかも、と推察したリーゼが満面の笑みを見せてくれたので、今死んでも惜しくないと、エドヴィン王子は思った。

「あ、ああ……そう……です」
「まあ、素敵。この自然豊かな場所で、殿下の美しい姿を遠目からでも拝見できましたらいいのに」

 いるよ!目の前にいるよ!
 そう叫びたかったが、ここで自分の正体をバラしたくなかったので、エドヴィン王子は口を自分の手で押さえることで我慢した。

「あの……リーゼ……様は……」

 どうしてここにきたのか、と尋ねようとすると、きょとんと目を丸くされた。

「あの、エヴィー……さん?ですよね?」
「はい」
「私と……初対面……ではないんですか?」
「え?」
「私のお名前を知ってくださっているみたいでしたので」
「そ、それは……」

 あれ?侍従って普通、貴族の令嬢の名前って知らないものなの?知ってるのが普通じゃないの?

 エドヴィン王子は自分が持つ常識が正しいのかも分からず、次の言葉を必死で探し始めた。