「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

「ニーナ?そこにいるの?」

 リーゼが、不安そうにニーナを呼ぶ。

「はい、おります」

 リーゼのすぐ横から、ニーナの声が聞こえたことで、リーゼはほっと一安心した。

「殿下も、すぐそこにいらっしゃるの?」

 その区別がつかないほど、リーゼの今の視力はすこぶる悪い。

「いいえ。でも安心してください。すぐにお戻りになりますので」
「安心なんて、できるわけないじゃない」
「と、言いますと?」

 リーゼは不安げな表情を浮かべながら、ニーナの声がした方に手を伸ばし、裾を引っ張った。

「だって、アレクサンドラ様を差し置いて、私が殿下と街へ行くなんて……神への冒涜よ」
「そんなことを考えるのはリーゼ様だけです」
「…………そうだわ、ニーナ」
「何でしょう」
「メガネはいつ直るのかしら」
「少し時間がかかるのではないかと……あと……6日ほど?」
「…………それは、とても困りましたわ……」
「と、言いますと?」
「……推しを愛でるには遠くからじっくりが基本なのよ」
「あーはいはい。分かりましたから。なる早で直してもらうように、職人には依頼してみますから」
「本当?こうしているだけで、推しの行動1つ見られないのが惜しくて堪らないのに」
「分かりましたから。あ、そろそろ、お出かけの準備ができたようですから、このまま捕まって歩いてくださいね」
「わ、分かったわ。……ねえニーナ。本当にアレクサンドラ様はお越しにならないの」
「はい。殿下とリーゼ様だけです」
「本当に、アレクサンドラ様はお怒りにな」
「ってませんから、ご安心ください。それでは歩きますよ」

 ニーナの声の合図と一緒に、リーゼが掴んでいる裾が動き始めたので、リーゼも合わせてしずしずと歩き出した。

「それでは、リーゼ様をよろしくお願いしますー」
「えっ!?」

 リーゼはここでようやく気づいた。
 確かに自分が掴んでいるのはニーナのはずなのに。
 ニーナの声がどんどん後ろにいってしまうことに。

「に、ニーナ……?そこにいるのはニーナよね?」

 リーゼは、恐る恐る裾に向かって確認した。
 ところが、返ってきた声はリーゼの予想外のものだった。

「すまない、リーゼ嬢」
「そ、そのお声……ま、まままさか……」
「俺がエスコートするのは、不安だろうか?」

 リーゼはここでようやく気づいた。
 今の今まで掴んでいた裾がエドヴィン王子のものであることに。