「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

 ニーナは、食道ギリギリでどうにか胃の内容物をキープさせ、自分が淹れてから少し時間が経ったお茶をがぶ飲みし、それらを胃の中に押し戻した。

「だ、大丈夫か?」
「お気遣い結構です、殿下。こういう対処法は慣れているので」

 大体リーゼがいつも、エドアレ関連で暴走している時も今と同じように

「聞いてくださいませ!今日のエドアレがー!!!」

 という言葉と共に、肩をめちゃくちゃに揺らされ、脳をシェイクされるから。
 まさか、数年間で身につけた、他では決して役に立たないスキルを、美形2人の前で晒す羽目になるなんて……人生何があるかわからないな、とニーナは思った。
 それと同時に、どうして人は興奮すると、その興奮を他人にも伝えようとするのだろうかという、人類共通なのか、それともリーゼとアレクサンドラなのかわからない疑問がぱっと浮かんだ。が、ニーナはそれをすぐに忘れることにした。

「そ、それで……視察デートでドキドキハプニング……とは?」

 エドヴィン王子は、そわそわと次のニーナの言葉を待っている。
 ニーナには、もふもふの耳としっぽが生えたように見えたが、それはきっと錯覚だろう。

「言葉通りです。明日、リーゼ様をお誘いし、変装した上で町に視察に出かけてください」
「そ、それだけでいいのか?」
「もちろん、それだけではありません」

 普通なら、一緒に飲み食いして、会話を嗜むだけであっという間に恋愛関係に発展するだろう。
 生理的な相性はあるが、エドヴィン王子レベルの容姿であればあっという間に男女問わずイチコロにできる。
 が、普通なら、の話だ。

「まず、殿下がリーゼ様にとって推し……ではなくて……観察して愛でる対象であるという色眼鏡を外しにいかなくてはいけません」
「な、なるほど?」

 絶対意味分かってないだろう、と分かるエドヴィン王子の返答だったが、推しとか観察対象などの説明は面倒なので省略。

「殿下は、吊り橋効果はご存じですか?」
「もちろんですわ」

 何故か、アレクサンドラの方が目をキラキラさせながら答えた。

「吊り橋の上にいるときに感じる、不安や恐怖を一緒に体験した殿方に恋心を抱いてしまうこと、ですよね」
「まあ、大体あってます。でもそんなことをどちらで?」
「実際に試したことありますの。効果は抜群でしたわ」
「………………へえ」

 ニーナは、直感でこの試した内容は、今は聞かない方がいいと思ったのでスルーすることにした。

「というわけで殿下」
「な、なんだ……」
「殿下には、町中でちょっとしたハプニングを、リーゼ様の前で解決していただきます」

 そういうと、ニーナは胸元にしまい込んでいた『蜜愛文庫』の文庫をさっと取り出した。