「まあ!とても素敵なお部屋ね……」
「そう……ですねぇ……」

 リーゼとニーナが案内されたのは、リーゼが1週間滞在する部屋。
 キラキラと輝くシャンデリアに、天蓋付きのベッド、細かい細工が施されたレースがふんだんに使われたクッションやカーテン。そして裸足で歩いても心地良さそうなふんわりなカーペット。
 ニーナはここが、将来の王妃のために作られた特別な部屋であることを、嫌と言う程聞かされていた。
 飾られている花が、アレクサンドラに似合うような大きな薔薇ではなく、小さくともその可憐さに心惹かれるような、ピンクな紫のスイートピーだったことからも、明らかにリーゼのために用意された部屋だと言うことは分かる。
 普通の令嬢……いや、女であれば、こんな部屋を用意されたらコロリと落ちるところだろう。
 一生、死ぬまでここに住みたいと考える令嬢は、この世界に大勢いるはずだ。
 だが、リーゼの優先事項はそれではなかった。

「ねえ、ニーナ」
「……何でしょう?」
「ここで彫刻を掘ったら、木屑で部屋が汚れてしまうわよね」
「そうですね。カーペットについたらなかなか掃除しても取れないかと」
「そうなると、次、ここを使う方に大変失礼よね」
「……かも、しれませんね」

 もっとも、エドヴィン王子にとっては、この部屋をリーゼ以外が使うことなど想像したくないだろうが。

「ねえニーナ。あなたはどんな部屋に泊まるの?」
「どんなって、普通の使用人部屋ですが……」

 と、そこまで話して気づいた。
 リーゼは、自分の屋敷でも、自分の部屋にいるより使用人部屋にいることの方が多かった。
 例え使用人が

「リーゼ様!おやめください!」
「ここはリーゼ様のような方が来るような場所ではありません」

 と優しく、だがしかしはっきりと拒絶をしたとしても、このお嬢様は聞かない。

「だって、こちらのお部屋の方が、作業で汚しても目立たないんですもの」

 リーゼにとって、自分の居心地など二の次以上。
 いかに創作活動がしやすい環境かそうじゃないか。
 それしか、興味がないのだ。
 
「ま、まさかリーゼ様……」
「お部屋、交代してくれな」
「できるわけないでしょう」

 あなた本当に貴族ですか?とニーナは声に出したかったが、無理やり唾と一緒に言葉を飲み込んだ。