物心ついた頃から、リーゼは眠る度に「その世界」を見ていた。
 まず目の前には、透明な板らしきものに、男女問わず美麗な人間の姿が映し出されている、手のひらサイズの彫刻が所狭しと並べられている。
 しかも、全員何かしらの決めポーズをしているだけでなく、衣装の組み合わせも一人ひとりの顔とスタイルをより良く魅せる素晴らしいものばかり。

(はわわわわ……このお人形みたいなものは何……?素敵過ぎませんかああ!?)

 次に目に入ったのは、壁一面に広がっている絵の数々。
 これも、透明な板に描かれている人間たちが、こちらを見てニコニコと微笑んでいる絵ばかり。
 眺めているだけで、心臓が鷲掴みされる。

(何ですかこの笑顔、笑顔、笑顔の楽園は!!ここは天国なの!?)

 そして極め付けは、耳に入ってくる美声で歌い上げられたリズミカルな音楽。
 聞いたこともないはずのものなのに、自然と体が音楽に合わせて動き出す。

(耳が幸せ……!)

 そんなことをリーゼが考えてる時だった。
 急に、リーゼの口が勝手に開いた。

「きゃー!!!ケンジ様ー!!愛してるー!!」

(な、何事!?)

 リーゼの口からは次々と「ケンジ」「好きすぎて死ねる」「一生推す」などの言葉が自動で出てきてしまっている。
 普通であれば、その異常事態に怯えるところだったろうが、リーゼ本人はただひたすら

(わかりみしかない)

 とこくこくと頷いていた。
 大体夢はこのあたりでいつも終わるのだが、それが毎日繰り返されるだけでなく、リーゼ自身が歳を重ねていったことで1つの結論が導き出された。
 夢は、リーゼの前世で見た世界であること。
 リーゼの「推し」への熱は、前世の魂からのつながりであることを。
 そして、だからこそリーゼは悔しかった。

(どうして、前世の私が今世にもいないの!?絶対いい推し友になれたのに!)

 人が聞けば、非常に無茶苦茶な理論ではあるが、とにもかくにも、それだけリーゼは求めていたのだ。
 どれだけ推しというものが尊い存在なのか。
 そして、推しこそが、この世界で呼吸する絶対的な理由であるということを語り合える存在を。

「おーい、リーゼ様。息してます?」
「…………ええ、今日もしっかり、呼吸させていただいてます!」
「まあ、人間ですから、呼吸しないと死にますよね」

 ニーナのことはリーゼはとても好きだ。
 前世に関する夢で見た、ツンデレ属性にドンピシャなこともあるから。
 でも、リーゼはニーナでは物足りないとも思っている。
 何故なら、ニーナとは推しについて語り合えないから。
 だからこそ、リーゼは心から欲していたのだ。
 推しを語り合える仲間を。