日当たりが抜群に良い、ブラウニー家のサンルームにて。
 エドヴィン王子とアレクアンドラの全身が描かれた木製の掌サイズの彫刻をそれぞれ、リーゼはテーブルの上に2人セットで並べながら、うっとりと眺めていた。

「ああ……なんて……なんって、素敵なお二人なのぉ……」

 すでに運ばれていた紅茶は冷めており、ティータイムのためのケーキはクリームがドロドロに溶けていた。
 しかし、リーゼにとってはそんなことはどうでもいい。
 何故ならば……。

「今日は、私がお茶会をイメージしたお洋服にしてみました!殿下、アレクサンドラ様、いかがでしょう……!」

 リーゼが思いつきで徹夜して作った、彫刻サイズの着せ替え服を着せるのに夢中だったから。

「ああ……いい……いいわぁ……この衣装……私が思った通りお二人にとてもよくお似合いよ……」

 ちょうどアレクサンドラの彫刻に、仕上げの帽子を被せたところで、呆れた声がリーゼの幸せな時間の邪魔をした。

「お嬢様、顔がひどいことになってます」
「あら、ニーナ。このお二方の顔は、いつでも太陽のように輝いているのよ。目が曇ってるんじゃない?」
「いえ、お嬢様の、お顔がです」
「……私の?」
「ええ。それははもう、ゆるっゆる。お顔のパーツが取れるんじゃないかと、本気で心配です」
「ニーナは相変わらず、その可愛い顔に似合わない毒舌ね、いいギャップ萌え」
「………………お褒めいただき光栄です………………」

 リーゼ付きのメイド、ニーナがゲテモノを眺めるような顔で立っていた。
 ちなみに、本来であれば雇い主の家族に対する物言いは、厳しく管理をすべきところだろうし、実際ニーナも最初はきっちりしすぎる程の敬語でリーゼと会話しようとした。
 ところが。

「あなたの敬語、何だか萌えない」

 出会って早々に、リーゼはニーナに対してこう言い切ってしまったのだ。

「…………はあ?」

 ニーナからすると、一体何が萌えにつながるのか全くわからず、つい隠そうと努力した本性を出してしまった。
 まずい、とニーナは考えた。自分の雇い主に対して失礼な態度を、ほぼ事故みたいなものとはいえ、とってしまったのだから。
 ところが、ニーナの雇い主は、ニーナの斜め上方向の反応を見せてきた。

「そう!それよ!」
「……え?」
「その、冷たい氷のような視線が、あなたの可愛らしい雰囲気から出てくるなんて、なんて素敵なギャップ萌え……はぁ……最高……」

 その結果、リーゼはニーナに

「そのままの口調で私に話してちょうだい。萌えを、私に存分に与えて欲しいの」

 と迫った。

(萌えとは、一体何だ…………)

 とんでもない変人令嬢に仕える事になったと、最初こそ自分の人生を憂いたニーナであったが、いざ共に生活すれば、この変人っぷりさえ目を瞑ることができれば、言葉遣いは咎められないし、ちょっとしたミスをしても

「やだ、完璧主義なニーナのドジ萌え、いただき」

 こんな風に、普通では考えられない理由でお咎めなし。
 それがこの

「ねえニーナ。このお二人の姿って、どうしてこう揃うと余計に神々しいのかしら」
「太陽の光が当たってるからではないですか」
「そうね!このお二人こそ一緒にいると、太陽のように眩しいのよ」
「…………超解釈、ほんと尊敬しますわ…………」

 何もかもを萌えと言い換えてしまう、とんでも令嬢リーゼ・ブラウニーなのだ。
 そんなリーゼには、物心ついた頃からもう1つの記憶があった。
 それは、生まれる前の魂……つまり、前世の記憶。
 大きな広間のような場所で、キラキラと輝く棒のようなものと、扇子を丸くしたようなものをぶん回しながら、誰かの名前を声が枯れるまで叫んでいた。