そうして始まった婚約者試験。
 社交界の花と評判の令嬢ばかりが、ダンスホールに集められた。
 だからこそ、この試験を仕組んだエドヴィン&ニーナ以外の誰もが、何故リーゼがこの場にいるのか不思議に思っていた。
 きっと、いつものリーゼだったならば令嬢たちと同じことを思っただろう。
 何故、自分がこんなところにいるのだろうか、と。
 けれども、今日のリーゼは違う。

「何としても、私がエドアレの絆を確固たるものにしてみせる」

 まさに気合十分。
 エドヴィン王子が聞いたら、卒倒しそうな理由ではあるが。

「あら、ブラウニー家の芋っこ令嬢が、こんなところで何をしているの?」

 話しかけてきたのは、アレクサンドラの家柄には一歩及ばないものの、その次くらいには家柄が良いご令嬢。
 客観的には美女の部類に入るこの令嬢、残念ながら、容姿と口調がいかんせんリーゼの萌え対象から外れてしまっていた。そのため、リーゼは名前を覚えていなかった。
 ただ、この令嬢が明らかにエドヴィン王子にモーションをかけていたことだけは、いつもエドアレを観察していたので、十二分にリーゼは知っていた。
 
「そちらこそ、いらっしゃったんですね」
「当然じゃない。私が呼ばれないはずないじゃない。むしろあなたの方が、ここにいるのが不思議なくらいよ」
「そうでしょうか」

 リーゼはそう答えた。
 心の中では「アレクサンドラ様のサポーターとして、自分ほど存在するのに相応しい人間はないのに」と思いながら。

「随分な自信ね」
「当然ですわ」

 だってアレクサンドラ様ですもの、というセリフは、リーゼの中であまりにも自然だったので、口に出すことをしなかった。

「まあ、生意気!」
「どちらが生意気なのでしょう?」

 アレクサンドラ様に叶うとでも言うのかしら……と、今度はちゃんと言葉にしようとリーゼが口を開いたその時だった。

「まもなく、試験を開始いたします」

 そう案内するのは、エドヴィン王子付きの侍従の1人。

「見てなさい。私が王妃になったらタダじゃおかないから」
「望むところですわ」

 アレクサンドラ様が勝つに決まってるもの。
 わざわざ言う必要がないと思ったリーゼは、結果的にリーゼ本人がエドヴィン王子の婚約者になる気満々だと、この令嬢だけでなく、令嬢との会話を聞いていた数名もの令嬢に勘違いさせてしまうことになった。
 そして、この事実にリーゼは気づく様子はなかった。