さらにそんなこんなを繰り返し、あっという間に婚約者試験当日。

「ねえ、ニーナ?」
「何でしょう、リーゼ様」
「私、この窮屈なドレスを着ないといけないのかしら?」
「はい」
「……絶対?」
「絶対です」

 この日、ニーナがリーゼに着せたドレスは、今令嬢の間で流行している、シンプルかつ上品なレースで仕立てられたドレスで、薄い桃色が女性らしさを演出している。
 さらにそれだけではなく、普段はリーゼが絶対にしたがらない、ルビーのイヤリングと、同じくルビーで作られたチョーカーも身に付けさせている。
 髪の毛は、エドヴィン王子が一目惚れした日と同じように流しているが、真珠の髪飾りを編み込んでいるため、いつもの10倍増しに輝いている。
 1つだけ残念なのは、眼鏡だけはどうしてもつけさせないといけないこと。そうしなければ、試験どころか歩くことすら危険だから、これは仕方がない。
 ちなみにエドヴィン王子は、一目惚れした姿こそ眼鏡なしの姿ではあったものの、それからことあるごとにリーゼが出没するスポットに、まるでストーカーのごとくお忍びで見に行っていたことから、リーゼの普段の姿も、一応把握はしていた。
 ちなみに、エドヴィン王子からその話を聞いた時、ニーナはいろいろな意味で自分の耳を疑った。

「正気ですか?」

 ニーナは、真顔で尋ねた。
 だがその後、晴れやかな笑顔で

「令嬢は、どのような姿でも可憐で……俺の理想の女性だ」

 などと、エドヴィン王子に言われてしまったものだから「……もう何も言うまい」状態にニーナがなってしまったというのは、別のお話。

 そんなこんなで、ニーナによって人生で最も着飾られたリーゼは、まさか自分が嫁ぐために開かれた婚約者試験などと夢に思うことなく

「エドアレを早く摂取しなくては……」

 と言いながら、スキップをしながら城に駆け込んでいった。
 ニーナは、そんな主人の背中を見送りながら、こう心の中で念じた。

「よろしくお願いしますね。リーゼ様。私の不労所得生活のために」