そんなこんなで、舞踏会の時以上の、リーゼの美しさを際立たせるドレスをもの数分でリーゼに着せ、ついでにばっちり髪型とメイクまで整えたニーナは、リーゼをもう一度ガラスの板越しに鏡の前に立たせた。

「まるで、絵画のお人形みたい」

 リーゼは、自然とそう口にしていた。

「そうでしょうとも」

 私の自信作ですから、という言葉はニーナの心に留めておいた。

「チンアナゴ、そこに並んで」
「わかった」

 もう誰も、エドヴィン王子がアレクサンドラにチンアナゴ呼ばわりされていても、誰も気にしなくなった。というより、気にしている余裕がないのだ。

「どう?リーゼ様。目の前のカップルは、推せる?」
「はい、エドアレとはまた別の……切ないストーリーすら湧き上がってくるような、新しいマッチングが成立したと思ってます」
「そうよね。私もそう思うわ」

 アレクサンドラはそう言うと、エドヴィン王子に目配せする。
 エドヴィン王子は、とりあえず自分が何か行動をすればいいんだな、ということだけわかったので頷いてみた。

「リーゼ様、今から伝説のシーンをこの鏡に再現してみせるわ。よーく見ていらして」

 そう言ってから、アレクサンドラはエドヴィン王子の形のいい耳たぶを、引きちぎりそうな勢いで引っ張ってから耳元で何かを言った。

「え、それを今するのか?」
「命令よ」
「だが」
「これが成功したら、リーゼ様お持ち帰りも夢じゃ」
「やらせていただきます」

 エドヴィン王子は、そのままアレクサンドラに言われた通りの動きをした。

「リーゼ嬢」

 そう言いながら、エドヴィン王子はリーゼの手を取ってから跪いた。
 それから、その手を自分の唇ぎりぎりまで寄せてからリーゼを見つめながらこう言った。

「俺はこの世界の誰よりも貴女を愛しています。一生俺の側にいてください」
「はい、よろこんで」

 瞬殺だった。
 ちなみにこの時、リーゼの顔はしっかり鏡を見ており、こう呟いた。

「私が敬愛するあの先生が描いた蜜愛文庫の名作の挿絵が、こんなところで蘇るなんて」

 ちなみに、セリフもそのまんま小説のもの。
 アレクサンドラとニーナによる、作戦の結果だった。