「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

 リーゼは、自殺願望を持っていたわけではない。
 むしろ「今日死んだら明日の推しを拝めない」「推したちの最後を見守ることこそヲタの務め」とすら思っていた。
 だから、生活習慣はあれこれ問題はあれど、必ず野菜はしっかり食べるなど、自分なりの健康法を実践していたのだ。
 それが、よりによって、自分が目の前の男性を推しの1人だと気付かなかった挙句、最も相応しい女性を差し置いてエチエチな事をして、一発で妊娠してしまった。
 エドアレファンクラブ会長としてだけではない。
 この国にとって、大変な事をしてしまったのだ。
 エドヴィン王子の子供であれば、次の次の王になる可能性がある子供。
 リーゼは、エドアレの良いところを受け継いだ王子と王女の妄想を繰り広げ、来る日に備えて産着まで最低5着は作ってしまっていたのだ。
 願わくばナニーに立候補して、子供達に「あなたたちの両親は、この世で最も讃えられるべきカップルなのよ」と毎日洗脳して、エドアレ同盟に加盟させる気満々だった。
 それが一晩の、たった1回の自分のミスで台無しにしたのだ。
 関係各所に申し訳ない。こんな自分、生きる価値などないゴミではないか。
 そう、ぐるぐると考えた結果、いつの間にか落ちていたナイフを拾っていたのだった。

「……ナイフを持っていたら、なんだって言うの?」
「私は、事実を申し上げただけで、まだ何も言っておりませんが」

 確かにそうだった。

「じゃあ、何しに来たの?」
「お聞きになりましたよね、妊娠の件」

 リーゼはニーナのツンなところを気に入っていた。
 だが、今日のツンは、ナイフ以上にリーゼの心にぶっ刺さって痛いと、リーゼは思った。

「だから……?」
「家族会議が必要かと思いまして。ね、殿下」

 ニーナも、エドヴィン王子がここにいることを、もう隠さない。

「そ、そうだ。リーゼ嬢。俺たちはこの間、あんなに熱く愛し合ったではないか。体位だって、あんなに変えて」
「殿下、今それ関係ない」

 ニーナのツッコミレーダーは、こんな時でもちゃんと作動した。
 
「と、とにかくだな……」

 エドヴィン王子は、リーゼがいるベッドに腰掛けてから、リーゼのナイフを持っている方の手首を掴んだ。

「きゃっ!」

 リーゼは驚きの反動で、ナイフをベッドの上に落とした。

「リーゼ嬢。騙していたことは本当に悪かったと思っている。だが、信じて欲しい。俺は、ずっと昔からリーゼ嬢のことが好きで仕方がなかったんだ」

 よし、よく言った、とニーナは心の中でガッツポーズをした。