「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

「医師が来るまでベッドで眠っていなさい」

 リーゼの母は戻ってきたリーゼに言ってから、ニーナを連れて応接室に向かった。

「私が言いたいこと、分かるわね」
「……はい……」

 リーゼの母は、リーゼ親衛隊でもあるブラウニー家の男どもよりずっと男らしくて凛々しい女性。
 ニーナを見つめる眼光はとても鋭かった。

「どうして、リーゼは妊娠しているのかしら」
「それは、ですね……」
「仮にも、あなたリーゼの専属でしょう。うちの娘が、一体、どこの馬の糞に種付けられたかくらいは、わかってるわよね」

 もし、それがこの国の王子だと言ったらどうなるのだろうかと、ニーナは別の意味で怖くなった。

「それで、どうなの」

 ニーナは、アレクサンドラより、エドヴィン王子よりもずっと目の前にいる人が苦手で、かつ為政者にはふさわしいとすら思っていた。
 人に「はいorYES」しか選択肢を与えない圧を、リーゼの母親は容赦無くかけてくる。
 リーゼの、優しさと脂肪で作られたぽんぽこ父親なんかにリーゼの母親が一目惚れしなければ、間違いなく今の王妃はこの人だったかもしれないくらい、王室からの評判もずっと良かったのだ。

「全て、お話します」

 どうせいつかは話さないといけないのだ。
 今話したところで変わらない。

「お相手は、エドヴィン王子殿下です」

 ニーナは、一言一句間違えず、綺麗な発音で伝えた。

「………………は?」

 言われた方は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。