「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

 リーゼの顔を見るだけで、ニコニコと機嫌が良くなるブラウニー家の男どもは、今日もダイニングテーブルでリーゼと美味しいディナーを食べることだけを楽しみに、辛い仕事に耐えていた。

「リーゼ、今日も絵を描いていたのかい?」
「……はい、お父様」
「ほとんど部屋に引きこもっているとニーナから聞いたよ。たまには兄さんと街に出ないか?」
「あっ、ずるい!俺もリーゼと釣りに行きたい!」
「俺も!」
「僕も!!」
「あなた達静かにしなさい!リーゼのお返事がまだでしょう!?」

 ブラウニー家の男どもは、女主人には弱い。
 一喝されて、しゅーんと耳が折り畳まれたうさぎのようになった。
 そんな女主人……つまり、リーゼの母親には気がかりなことがあった。

「ねえ、リーゼ。今日も食べないの?」
「なんだか、胃が食欲がムカムカして……」

 ずっとこの調子。
 この状況に、リーゼの母親は心当たりがある。かつて自分も経験したから。

「ねえ、リーゼ。あとでお母さんとお話ししましょうか」

 ずっとリーゼの母親は機会を伺っていた。
 自分の仮説が本当に合っているのか。
 でも、聞くのは正直怖かった。
 もし本当に仮説が合っていたとしたら、それは正しい順番ではないから。

「でも私、絵を描きたくて」
「ほんの5分、ママとお茶するくらいの時間も取れないの?」
「お茶……」
「そうよ、それにこの間のお城でのお話も聞きたいし」

 リーゼの母親がそう言った時だった。
 
「す、すみません……」

 リーゼは、大好物のデザートを一口食べる前に口を押さえ、そのまま廊下に飛び出してしまった。
 それを見て、男どもは

「可愛いリーゼが体調崩した!?」
「病気か!?世界中から名医を呼んでこい!」

 と大慌てし、リーゼの母親は仮説が確信に変わった。

「ニーナ」
「はい奥様」
「どういうことか、説明してくれるわね」