「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

 ニーナは、今までドレスというものを着たことがなかった。
 そもそも、自分が「着るもの」であると考えたこともなかった。
 使用人には使用人が着るべき服があり、ドレスはお金を生み出す道具でしかないとニーナは本気で思っている。
 そんなドレスを着るべき人種に「あなたも似合っている」などと言われた日には、自分の価値観がガラガラと崩れていく恐怖を最初に感じても不思議ではないだろう。
 だが、ニーナが今感じているものは、決して悪いものではなかった。
 ただ、ほんの少しくすぐったいだけ……。
 
「アレクサンドラ様……私、このドレス汚しても弁償できませんよ」
「何言ってるんです?それはもう、あなたのものよ」
「えっ!?」

 アレクサンドラはそういうなり、ぱんぱん、と手を叩いた。
 すると、どこからともなくタキシード姿の男性がずらりと現れた。

「この人たちは……」
「今日の隊長のパートナー候補ですわ」
「パートナー!?」
「舞踏会に一人でいるなんて、不自然ですもの」

 それでいえば、リーゼは基本誰もパートナーを持たず、推しカプをニヤニヤ眺めていたから、あながちぼっちが不自然ではないのでは、とニーナは一瞬言おうと思った。
 だが、アレクサンドラが選んだ男性たちというのが、とにかくイケメン揃いだった。

「ち、ちなみにこの方達の正体は…………」
「うちの騎士全員連れてきましたの」

 こんなことで騎士使ったらダメだろう!有事の際どうするんだ!とニーナは思った。

「さあさあ、ニーナ。どれを選びますの?」
「どれって……」

 正直、全員が眩しすぎる。
 綺麗な顔は見慣れている。
 だがそれはあくまで第三者の立場でいられたから冷静でいることもできた。
 でも今は違う。
 ニーナは、選べてしまうのだ。
 自分の意思で、一人のイケメンを。
 そんな経験、きっと今日を過ぎれば二度とやってこないだろうということをニーナはわかった。
 そう、これは夢。
 リーゼや花畑王子のために、あれやこれやお世話したご褒美を神が授けてくれたのだ。
 そのように考えることにして、ニーナは最も自分の好みに合う男の手を取った。

「この人で」
「えっ、本当にそれでいいんですの?」
「はい」

 アレクサンドラが驚くのは無理はない。
 ニーナが選んだのは、その中では比較的一般人寄りの平凡顔に平凡体型の男だったから。
 その横には、エドヴィン王子寄りのゴリゴリイケメンがいたにも関わらず。

「なんだか、この人が安心しそうで」
「まあ、好みは人それぞれだものね。それじゃあ」

 アレクサンドラは、自分のダーリンとしっかり体を密着させながらこう言った。

「それでは参りましょう!戦場へ!」