「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

「に、ニーナ!?」

 リーゼは物思いに耽っている時に急に話しかけられてしまったので、動揺してつい手に持っていた白紙の紙を枕元に隠してしまった。
 今まではがっつりあは〜んな本番を、なんだったらイメージ図つきで書いていたにも関わらず、堂々とおっぴろげていたのに。
 もちろん、ニーナはそれをしっかりガン見した上で、見なかったフリをしていた。それは雇用の安定が欲しかったからではあるが。

「急に話しかけないで!びっくりしたじゃない!」
「先ほどから何度も話しかけておりましたが」
「…………え?」
「はい。何度も、なーんども、リーゼ様のお名前を呼びましたけれども」
「あ、あら、そうなの?おほほほほ」

 普段はしないような、リーゼの母親のような似合わない貴族笑いをしながら、リーゼは枕の下に更に紙を隠す仕草をした。
 もちろん、雇い主想いと思わせることは天下一品の腹黒メイドは、今回も見ないフリをしてあげた。

「そ、それで?ニーナはなんの用なのかしら」
「………………はあ?」

 ニーナはそう言うなり、首をブンブン激しく横に振ってから、わざとらしい大きな咳払いをした。

「に、ニーナ?」

 普段あまり見ないようなニーナの態度に、リーゼは軽く戸惑ったが

「失礼いたしました。深呼吸しようとしたら、喉の蛙が鳴ってしまったようで」

 と、リーゼにとってはよく分からないことを言い出したので、リーゼはこくこくと頷くだけにとどめた。
 なんとなく、ニーナの表情から、これ以上は突っ込まない方が良いと、いくら鈍チンと言われ続けるリーゼでもわかるくらいのオーラが出ていたから。

「今日は、殿下の正式な妃が決まる舞踏会の日ですけど」
「そ、そうだったわね!」
「もちろん、リーゼ様も参加するんですよ」
「そそそそうなのね」

 それから、しばし無言が続き、部屋には空気が通り抜ける音だけが虚しく響くだけだった。

「…………リーゼ様。とりあえず、お風呂準備しますんで、とっとと入ってきてください」
「わ、わかったわ」
「お風呂入ったら、木削るのも絵を描くのも禁止ですからね」
「わ、わかったってば!」

 そうして、リーゼはニーナにせっつかれるように用意されたお風呂へと向かった。
 背後で大きなため息が吐かれるのを聞きながら。