「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

 そんな風に、自分に仕えるメイドが腹で何かを企てていることなど露知らず。
 話題の中心人物は未だネグリジェを着たままベッドの上でぼーっとしていた。
 手には、紙とペンを握りしめていた。
 それは、推しても推してもまだ足りない、エドヴィン王子とアレクサンドラへの熱情で生み出した夢を書き起こすために、これまでも寝起きの習慣としてペンを取り続けていた。
 だが、ここ数日は自分自身でも信じられない変化に驚いていた。
 書けなくなってしまったのだ。今日、とうとう一文字も。
 昨日は、書けてもたった10文字程度。おとといはもう少し書けた。
 その前は数行程度は妄想を書けた。
 そうして、リーゼはここ数日書く試みをした紙を並べながら頭を悩ませた。

「どうして、書けなくなったのかしら……」

 理由を考えようと、目覚めたばかりの頭をフル回転させようとした時だった。

「あなたのお声は、どうしてそんなに愛らしいのでしょうか?」

 と、毎回自分が推しカプへの愛を語るたびに、嫌な顔1つせず(と本人は声だけで解釈している)優しく話しかけてくれる男性の声が蘇ってしまう。
 推しと似ている声だから(と本人は本気で信じている)なのだろうか。
 本当の推しであれば許すまじ浮気発言であっても、推しに似ている男(と本人はガチで信じている)から推しを愛でることを肯定してもらえることが、本当に嬉しいとリーゼは思ったのだ。
 そんな喜びが心を温め、「うふふふふ」と自分でも聞いたことがないような気味が悪い声が口から漏れるたびに、妄想の絵がどこかへ消えてしまう。
 それが繰り返された結果の、今なのだ。

「はぁ……せっかく今日は、推しが結ばれる素晴らしき日になるというのに……」

 リーゼにとって、今日の舞踏会はエドヴィン王子とアレクサンドラが正式に結ばれるための重大な日。
 できることなら、しっかりクリアな視界で、ぴたりと5m程の距離感を守りながら、奇跡的瞬間をしかと確認したかったし、文字として残し、推し仲間(がいると本気で信じている)にも喜びを提供したい!なのに、脳がまったく動かない。それが、リーゼを悩ませてもいた。

「これはまさか……?」

 前世の記憶があるリーゼとしては、心当たりがないわけではなかった。
 まさか自分がもう一度こんな気持ちを取り戻すことになるなんてと、リーゼは自分がまず信じられなかった。

「こんなの、計画になかったのに……」
「何が、計画なのです?」

 ぱっとリーゼが声に反応して顔を上げると、今自分が最も信用している素晴らしきメイドが、怪訝な顔でリーゼを見つめていた。
 ツヤツヤと光る、着心地良さそうなドレスを抱えながら。