もはや脳内に、全世界の花が咲き誇ったんじゃないかと言われてもおかしくないエドヴィン王子は、鼻歌まじりで舞踏会の準備をしていた。
 本当はもっと早く決定し、国民に広めたかった、自分と愛するリーゼとの婚約。
 試験などという面倒なプロセスなど踏まず、慣例のまま進めることができれば今頃はすでに結婚式の準備に勤んでいたことだろう。
 もしかすると、今日この日が結婚式であり、夜にはリーゼとベッドの上で初夜を迎えていたという可能性も……あった、かもしれなかった。
 だがリーゼによる、自分と……よりによってどうしてそこだったのか……幼馴染でもあり、男友達と言われた方が自然な、アレクサンドラとのカップリング推し?という概念が全てをぶっ壊した。
 リーゼに、エドヴィン王子という肩書きを持つ自分と恋愛するというイメージを持ってもらわなくては話にならないと、リーゼのことをよく知っている……今ではエドヴィン王子も絶大な信頼を寄せるメイドから叩き込まれた。
 だから、ここまで頑張った。
 例え、相手に自分の本当の名前を呼んでもらえてなかったとしても、他人のフリをしてでもリーゼの話を聞いて聞いて、時々口説くという手法をこの1週間試し続けた。
 その結果、昨日はついにこんな言葉を引き出したのだ。

「こんなに、男の方と一緒にいることが楽しいなんて、知らなかった……」

 このまま、キスの1つでもできたらどんなに良かったか。
 実際、リーゼが少し顔を上げて目を瞑るという瞬間があったから、そのままさくらんぼのような可愛い唇を食べてしまいたかった。
 だが、すぐにエドヴィン王子は思い出した。
 ほんの数m先では、自分の行動を逐一監視し、かつ数時間後にはくどくどダメ出ししてくる存在が2名以上いることを。
 ちなみに2名は確実に名前まで分かるが、なぜか少しずつ人の気配が増えていたので、正式な人数をエドヴィン王子は把握することはできなかったのだが。
 そんなこんなで迎えた舞踏会。
 ここで、エドヴィン王子は勝負を決める。
 自分の正体を明かし、告白する。
 そして、リーゼこそが王妃であるとリーゼに認識させてから、キスをする。
 それが、この時のエドヴィン王子の目標であり、メイドから与えられたミッションだった。
 
「よし……もう1回練習せなば……」

 外国との重大な交渉ですら、エドヴィン王子はここまで緊張したことはなかった。まさに今日の舞踏会は、そんな彼にとって一世一代の大舞台なのだった……。