「推しカプを拝みたいだけ」で王子の婚約者選抜試験に参加したのに、気がつけば王子の子を妊娠してました

 けれどもリーゼにとってはそんなことはどうでもよかった。
 抱きしめられたことに驚きはしたが、嫌ではなかったことに驚いた。
 普段兄や父から暑苦しい愛情を受けているリーゼは、もちろん彼らから抱きしめられることは多かった。
 だが、その度にリーゼは

「近寄らないでくださいませ!」

 と拒絶をしていた。
 リーゼは前世の記憶のせいもあるのだが、パーソナルスペースを侵されることをとても嫌がるタイプの人間だった。
 自分の居心地が良い範囲は確保し、趣味に没頭する。
 それが、リーゼ・ブラウニーという人間。
 リーゼはそんな自分の性質をちゃんと理解していたからこそ、他人とは実は一定の距離を取り続けてきた。
 そんな自分が、他人の体……しかもよりによって、昨日会ったばかり(と本人が思っている)の男性の体とぴったんこしても、嫌どころかむしろこう思ってしまった。
 気持ちいい。
 離れたくない、と。
 エドヴィン王子とアレクサンドラを見ている時に感じる

「いや!この現場から離れたくない!観察したい!!!!」

 の離れたくないとは全く違う。
 まるで自分の体が磁石になったかのように、くっつきたくて仕方がないという状態なのだ。
 そして、リーゼはこういう現象を言語化した後の結論は知っている。
 何故なら、数えきれないほどそういうシチュエーションを読み続け、なんなら書き続けてもきたから。……エドヴィン王子とアレクサンドラで。

「まさか……そんな……」

 リーゼは初めてのことに戸惑うしかなかった。
 まさか自分が、たった1日会っただけの、顔も知らない(と本人は思っている)男に恋をするなんて、と。