「桃子、平気か?」
「……ん」

何度も深呼吸して、呼吸を整える。
そんな私の背中を、匠刀がゆっくりと撫でてくれている。

「兄貴の試合になりますよ~っ」
「ありがとーっ、今行く~~」

施術室の方から父親の声が返って来た。
そして、パタパタと複数のスリッパ音が重なる。

常連の奥平さんと、私の両親だ。

「すみません、施術中に」
「いやいや、津田さんとこの(せがれ)だと聞いたら、応援しないとな」
「虎太郎君の調子はどう?」
「結構いい仕上がりになってるみたいっす」
「そうか、それなら一安心だね」

匠刀の父親は、親世代ではかなり有名な人だ。
だから、うちの鍼灸院でも津田家はかなり有名なご利用者さん。

「出て来たね」

大会のスタッフに誘導され、白い道着に青い帯姿だ。

「結構緊張してんな」
「そうなの?」
「首を左右に小振りにする時、結構緊張してる時だから」

虎太くんでも、やっぱり緊張するよね。
表情ではそんな様子、全く分からないけど。
相手に読まれないためにポーカーフェイスを決めるのも実力のうちだと、前に匠刀から教わった。

「頑張って…」

無意識に手が合わさって、テレビに向かって祈ってしまう。

「大丈夫。彼女の前でカッコ悪いとこ見せらんねーから」
「……うん」

そうだよね。
雫さんにカッコいい姿を見せるためにも、きっと必死に頑張るはず。

「始まった」

審判の合図で、深く一礼した両者。
制限時間と点数、ペナルティの回数を表示するスコアが、テレビ画面の右下に表示された。

体格はほぼ互角。
だけど、贔屓目かな。
虎太くんの方が、強そうに見える。