見れば見るほど、かっこいい顔。

 ドキドキしすぎて目のやり場にこまるのなんて初めて。

 槙野がほほえんで目を伏せるから、わたしは恋人同士のキスを思い浮かべてしまって、とっさに顔を背ける。


 初めてだもの…っ。


 でも、訪れたのは、ほおから温もりが離れる感触と、背中とひざ下が圧迫される感触。

 気づいたら、わたしの体はふわりと浮いていた。




「お世話するたびにそう赤面されては、私も変な気を起こしてしまいますので。私に慣れてくださいね、お嬢さま」


「へ、変な気って…!」


「お嬢さまは魅力的なレディですから。主人でなければ、口説(くど)いていました」




 右目をつぶってウィンクする槙野に、ばくばくと鼓動(こどう)が速くなる。




「ふふ、いけませんよ、お嬢さま。この程度、笑ってかわさなくては」




 きれいにほほえむ槙野を見て、そんなのむりに決まってるでしょう、と心の中でさけび返した。


 この執事はわたしの心臓に、とてもわるい気がする…っ。




fin.