「これ、ください」




 まっすぐカウンターへ向かって、相変わらず読書に集中している店員さんの前に本を置く。

 おなじクラスの男子たちとはちがって、身だしなみにまるで気を遣っていないのか、彼のもじゃもじゃした髪は鎖骨(さこつ)の上まで伸びていた。

 顔を上げて見えた目元には、大きな丸メガネがかけられている。


 透明(とうめい)なレンズの向こうに、思いのほかキリッとした切れ長の瞳があることを、どれだけの人が知っているんだろう。




「あ、これ…」




 ぼそっと、富士山のシルエットに似たきれいな形の唇を動かして、店員さんが声を落とす。

 神絵師と呼ばれる人がていねいに描いたように、顔のパーツのどこにフォーカスしても美形という言葉しか似合わないお兄さん。

 今日クラスで見た女子の姿にならって、私はカウンターに両腕を置き、腰を折りまげた。