「…」




 私は声を出さないように気をつけて、四方八方にある本だなを見ながら歩いた。

 通っている高校の生徒がなぜか派手な人たちばかりだから、人に話すと意外な顔をされるけど、私もそこそこ本は好きなほう。

 “けっこう”と言わないのは、いつ見ても本を読んでるあの店員さんには負けるから。


 ところぜましとならぶ本の背表紙を目でなぞっていると、【本の虫】というタイトルの本を見つけた。

 あ、と音を出さずに吐息をもらす。

 私の頭にすぐ浮かんだのは、もちろんカウンターにいる店員さん。


 胸がドキドキとするのを感じながら、私はすこし高い位置にあるその本に手を伸ばした。


 この本を手に持ったところで、あの店員さんにふれたわけじゃない。

 そんなことはわかっているけど、彼を捕まえられたような気がして、心臓がさわいだ。