本の虫。

 きっとあの人は、そういう言葉に当てはまる人だ。


 古きよき古書店、と言えば聞こえがいいけど、ストレートに言うなら、古びたおんぼろ古書店の引き戸を、ガガガ、と開ける。




「ん…いらっしゃいませー」




 今日もいた。

 やる気のない低い声が店の奥から飛んでくるのを聞いて、口元がすこしにやけてしまう。

 年季の入った紙のにおいに包まれながら、店内に入って、目の前に立ちふさがる本だなの向こうをのぞき見た。


 どこを見ても本が満ちたこの店の最奥にある会計カウンター。

 そこに座って店番をしているのは、照明を受けても黒々としている天パの男の人。

 大きな手に文庫本を持って、今もお客はそっちのけで開いたページに視線を落としている。


 鼻の頭に届きそうな長い前髪は、うつむいていると目元をおおいかくしてしまうから、陰鬱(いんうつ)とした雰囲気(ふんいき)がただよいまくり。