……ーーまた、子守唄がきこえる。

 けれど、うたっているのはウツギさんじゃない。懐かしくて大好きな、もう会えないひとの声。


「お母さん……」


 目を開くと、お母さんが私の頭を撫でながら微笑んでいた。

 ーーこれは、夢だ。

 お母さんが死んで、7年が経つ。お母さんと共に歩んだのは、私の人生のちょうど半分。話したいことは、たくさんある。相談したいことも、伝えたいことも、たくさん。

 弱い私は、お母さんがいなくなって、どうしようもないほどの絶望のどん底にいた。けれどお母さんが遺してくれたヘアピンをお守りにして、お母さんだと思って、心の支えにしていたんだ。


「お母さん、ごめんね。ヘアピン、壊れちゃったんだ」

「いいのよ、それで。いつかは壊れるものでしょう」

「でも私は、ヘアピンがないと……お母さんがいないと、嫌だよ」

「ヒスイは、大丈夫だから。だからどうか、このままーー」


 淡い光となるお母さんに手を伸ばしたが、むなしく(くう)を掴むだけだった。

 日だまりに影がさすように、幸せが不安で覆われていく。もう夢が覚める。

 ……私はまた、ひとりで立ち上がらないといけない。この手をとって一緒に歩いてくれるお母さんは、もういない。