魔女は好きな時に『時戻りの実』を口にできるようにと、果実の成分を抽出して液状にしたものを渡してくれた。
 病人でも飲めるよう、無味無臭に調整もされて。
 私は小瓶に入れられたそれを、私室の机の引き出しに忍ばせておく。

 フォルストに結果を報告すると、彼は涙を流さんばかりに喜んでくれた。


 とはいえ、私たちには時間がなかった。
 数日後、私はカミルの体調を見計らって、二人でお茶をする時に、(くだん)の果実を手に入れたことを伝える。
 
「……そうか。本当に『時戻りの実』はあったんだな……」

 あまり驚いた様子はなく、夫はベッドの上でしみじみとつぶやいた。

「魔女が話のわかる人で良かったわ。これであとは、あなたが実を口にするだけ。『善は急げ』よ。早いうちに……いいえ、もう今から、この液体を飲んで下さい」

 いつ容体が急変するかわからない。そんな不安もあって、私はムードもへったくれもなく、すぐに実を飲むように急かした。
 引き出しから持ち出した小瓶を、夫の目の前に置いて見せる。

 だがしかし、何故かそこで、彼は私の頼みを却下した。