「先に言っておくけど、これは世界全体の時間を巻き戻すってわけじゃないよ。実を食べた人間だけが、そいつが一番後悔していた時点へとさかのぼるんだ。しかもその人間は体ごと、すべてがこの時間軸から完全に消え去る。つまりあんたの旦那は健康だった頃に戻れるけど、あんたがいっしょにその時間に戻るわけじゃない。それどころか旦那はこの時間軸からいなくなっちまうんだ。確認しておくよ。本当にそれでもいいのかい?」
魔女は存外律儀なようで、そう言って今一度私に念を押した。
それでも私は首を横に振らなかった。
おそらくフォルストだろうと他の使用人だろうと、答えは同じだったろう。
私たちが大切なのは、カミルの命なのだから。
彼がこれからも生きてゆけることが、一番優先すべきことなのだ。
たとえこの時間軸(……で、いいのだろうか)から彼が消えようと、どこか別の時間で元気にやっていけるのなら。
それ以外は何も望まない。それだけでいい。
私たちの決意は変わらない。
そうして私は、魔女から『時戻りの実』を買い取ったのだった。