私はというと無事だった。怪我も奇跡的に軽傷で済んでいた。
 でも、その後どうやって屋敷へ帰ったのかまるで覚えていない。
 多分、先に一人で戻って、助けを呼んで、皆に彼を運んでもらったのだと思うけど。
 脳が記憶を封じ込めているみたいで、その時のことを思い出そうとすると、頭痛がして先へ進めなくなるのだ。
 きっと、あまりにも辛すぎるからだと思う。


「正直申し上げまして、生きておられることが奇跡なんです」

 主治医の先生はベッドに横たわるカミルを診た後、感情を排した口調で言った。

 そう、夫は死んでしまったわけじゃない。
 けれど、ずっと目を覚まさなかった。
 眠り続けている。
 傷ついた箇所が致命的なところだったらしく、今後も目が覚めるかはわからないと言われた。
 また、運良く意識が戻っても、その後の生活では歩くことにも苦労するだろうと言われた。
 領外からも腕の立つ魔術医を呼んで、大掛かりな手術が行われ、なんとか命を繋ぎとめたけど、たった一日でとてつもなく大きなものが失われてしまった。

 その代わりに残ったのは……絶望だけだった。