「……ごめんなさい」
「え?」

今の、リリアナさんの声?

さすがにびっくりしたあたしは、踵を返して彼女に向き合う。
すると、リリアナさんは目を伏せてもう一度謝ってきた。

「ごめんなさい。わたくしは……編入してきたあなたに意地悪なことをしてしまいましたわ。ヴァイス殿下の恋人に相応しくない…と、ずいぶん身勝手な思い込みで」
「ああ…」

そういえば、リリアナさんには初日から絡まれたっけ。“ヴァイス様に相応しいとお思いでいらっしゃいますの?”とお約束な絡まれ方。あとは、転ばされそうになったり…教材を隠されたり…と子どもじみたかわいいものだけど。

「リリアナさんは、あたしを寮から追い出したり授業で席を無くしたり…とかはしてないよね?」
「いいえ!神とドラゴンに誓って、そのような卑怯なことはいたしておりませんわ!」

(やっぱり……あのたちの悪い嫌がらせはリリアナさんじゃなかった。じゃあ…一体誰が?)

ハワードは伯爵令息で騎士団副団長の息子だけど、竜騎士である親がそんな嫌がらせを認めるはずがないし、ハワードも嫌がらせは子どものいじめっ子レベルだ。だから…誰があんなことを?

ハッと我に返ると、リリアナさんが肩を震わせ待っている。
自分から謝罪したということは、罪を認めて悔いたということ。己を省みることが出来たのだから、少しは成長したんだろう。

「リリアナさん、勇気を振り絞って謝ってくれてありがとう。あたしはもう気にしてないから。あなたも気にしないで、ただ、二度とあんなことはしないでね」
「…!も、もちろんですわ」

目に涙を浮かべたリリアナさんは、あたしの手を握りしめて二度としないと誓ってくれた。
そしてリリアナさんの謝罪をきっかけに、他の皆も謝ってくれる。それで十分と水に流す事にした。