放課後の廊下。

 肩を並べて歩くのは、初めてではない。


 だけど、こんなにも緊張しているのは、初めてだ。


 今日こそは伝えるって、決めたのに。


 少しだけ先を歩く彼の背中に、声をかける勇気がない。


「今日は随分と大人しいのな。どうした?」


 すると、彼が振り向いて言った。


「いや、えっと……」


 まだまだ心の準備ができなくて、私はわかりやすく言い淀む。


 これでは、なにかあったと言っているようなもの。


 ああ、どうして上手くいかないの。


 自分を惨めに思いながら俯くと、視界に彼の上履きが入った。


 顔を上げると、彼が心配そうに私の顔を見ている。


 私の顔に伸びてきた彼の手のひらは、そっと私の額に触れる。


「熱は……ないな」


 彼がそんなことを確かめている間に熱が上がりそうで、私は一歩、後ろに下がる。


「本当にどうした?」


 ダメ、これ以上、逃げないで。


 私は覚悟を決めて、彼を見つめる。


 彼と私の視線が交わる。


 彼の視線を独り占めしているこの状況に、ますます緊張して声が出ない。


 ああ、心臓の音がうるさい。


 だけど、言うって決めたから。


 私は震える手を伸ばし、彼の袖を掴む。


 きょとんとした彼に、背伸びをして近付く。